【第53帖】手習(てならい)【源氏物語あらすじ・解説】
薫27歳3月から28歳の夏にかけての話。
匂宮と薫の板ばさみで追い詰められた浮舟は自殺を図り、宇治川沿いの大木の根元に昏睡状態で倒れているところを、たまたまやってきた僧都の一行に助けられます。
対訳にはなっていませんので、ご注意ください。
あらすじ
浮舟、横川の僧都一行に救われる
その頃、比叡の横川に某僧都といって、人格の高い層がいました。
僧都には八十歳を過ぎた母と五十歳を過ぎた妹がおり、この親子の尼君が、昔かけた願果たしに、初瀬へと参詣をしに行きました。僧都は親しい阿闍梨を付き添いとしてふたりにつけ、初瀬では供養や功徳を行いました。
ところが帰りの道中の奈良坂というところで、大尼君の方が病気になってしまいます。
僧都は今年いっぱいは山から下りないと決めていたものの、知らせを聞くとすぐに宇治へとやってきました。
世話になっていた家では、家主が御岳参詣のための精進潔斎をしており、もしもの場合には迷惑だろうと感じつつも、方角が悪いためにすぐに家へと戻ることもできずにいました。
けれども朱雀院の御領で宇治の院があることを思い出し、僧都一行がそちらに連絡したところ、了承を得ることができたため、移ることとなりました。
番人の翁は旅人を迎えることになれていましたが、屋敷は荒れており、僧都は弟子に経を読ませたりするのでした。
そのとき何を思ったか、僧の一人が下の者に松明を持たせ、森の中まで見廻りをし始めたのです。するとそこには、あやしい白い影があり、よく見ると女が座り込んで泣いているのでした。
狐や鬼の類かとしばらく様子をみていましたが、これは人に違いないと分かり、一行は女を家の中へと運び入れます。
大尼君と僧都の妹の尼君も屋敷に到着し、妹の尼君は女のことを聞いて「初瀬で籠っていたときに見た夢」のことを思い出します。
妹尼は数年前に娘を亡くしており、浮舟を初瀬観音からの授かりものと喜んで、実の娘のように手厚く看護をするのでした。
浮舟、意識を取り戻す
比叡山の麓の小野の庵に移されてしばらくたった夏の終わりごろ、浮舟はようやく意識を回復する。
しかし、死に損なったことを知ると、出家を懇願するようになる。
浮舟は世話を焼いてくれる妹尼たちの前でもかたくなに心を閉ざし、身の上も語らず、物思いに沈んでは手習にしたためて日を過ごしていた。
妹尼の亡き娘の婿だった近衛中将が、妻を偲んで小野の庵を訪れる。
妹尼は、この中将と浮舟を娶わせたいと考えていた。
中将は、浮舟の後ろ姿を見て心を動かし、しきりに言い寄るようになる。
しかし浮舟は頑なに拒み続けるのであった。
浮舟の出家
九月、浮舟は、妹尼が初瀬詣での留守中、折りよく下山した僧都に懇願して出家してしまった。
帰って来た妹尼は驚き悲しみ、女房尼から知らされた近衛中将は落胆する。
尼になった浮舟はようやく心が安らぎを得た思いでいる。
薫、浮舟生存の知らせを受ける
翌春、浮舟生存の知らせが、それを加持僧から聞いた明石の中宮と中宮に仕える小宰相の君を経て薫に伝わった。
薫は(匂宮が隠しているのでは)と疑う。
しかし小宰相から「その心配はいりません」と、中宮が「宮のした事を思うと私の口からは言えない」と気に病んでいた事を打ち明けられ、横川行きを後押しされた。
薫は事実を確かめに、浮舟の異父弟・小君を伴い横川の僧都を訪ねる。