06番歌 かささぎの(大伴家持)
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
現代語訳
かささぎが架けた天の川の橋に星たちが霜のように白くきらめいているのを見ると、夜も更けたなあと思う。
「かささぎの渡せる橋」とは天の川にかかる橋を指しています。冬の星のきらめきを、羽を広げたかささぎの上に降り積もる霜のきらめきと重ねています。
『家持集』に入っていたため家持が詠んだ歌とされていましたが、実際は家持の作ではないようです。
かささぎの渡せる橋
中国の伝説では「七月七日の七夕の夜に、かささぎが羽を広げて天の川に橋を架け、織女星を彦星のいる対岸に渡す」とされ、これを踏まえています。
ただ、江戸時代の学者である賀茂真淵以来、この「橋」を「宮中の御階(みはし)」とする解釈もあります。「橋(はし)」と「階(はし)」が同音だからです。
また『大和物語』一二五段では、壬生忠岑(みぶのただみね)が宮中の階段にひざまずき、
かささぎの 渡せる橋の 霜の上を 夜半にふみわけ ことさらにこそ
と詠んでおり、ここでは「宮中の御階」のことを指しています。
考察
「かささぎの渡せる橋」の解釈について見解が分かれるところです。
わたしは、「霜」という単語が使われていることからこの歌の季節が「冬」だと考えます。すると「かささぎが渡せる橋」がかかるのは「七夕」なので季節がずれてしまいます。
天の川に実際に「橋」がかかっている風景を想像するのは、季節はずれになってしまうのです。
よって「かささぎが渡せる橋」は「恋人に会いに行くための橋」の象徴として使用されている、と考えます。作者が実際に見ているものは「霜のかかった橋」で、その背景には天の川が見えている。
言い換えると、天の川を背景に、まるでそこにかかった橋のように見える「目の前の橋」。そこに霜が降りている、幻想的で美しい光景を描いた歌ではないかと思います。
作者:中納言家持
奈良時代末期の歌人で、大伴家持のことです。
「三十六歌仙」のひとりで、『万葉集』の編纂に関わったと言われています。
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