57番歌 めぐりあひて(紫式部)
藤村さき
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな
めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし やはのつきかな
決まり字は一文字目の「め」。一字決まりの七首「む・す・め・ふ・さ・ほ・せ」のひとつです。
出典の『新古今和歌集』詞書によると、幼馴染に久々に会ったのに、本人かどうかも分からないうちにあわただしく帰ってしまった、という内容を詠んだ歌です。
『紫式部集』の巻頭歌に置かれた一首です。最後を「やはのつきかげ」としているものもあります。
現代語訳
やっとめぐりあって、見たのが本当に月だったのかもわからない短い時間で、雲の中に夜半の月は隠れてしまった。
詞書のとおり、あっという間に帰ってしまった幼馴染に対して詠んだ歌です。「月=幼馴染」の構造になっています。
詞書がなければ、幼馴染にあったときのことを書いているなんて分からない歌です。それでも、相手が誰だか分からなくても、雰囲気や状況がしっかりと伝わってくる歌です。
作者:紫式部
『源氏物語』や『紫式部日記』の作者として有名ですが、歌人としても優れた人です。
よく清少納言と仲が悪かった、という風に描かれます。
それには理由があって、『紫式部日記』で清少納言のことをあまり良いように書いていない、さらに言えばこき下ろしている、からです。
実際に二人に面識があったかどうかは分かりません。
出仕時期を考えると会ったことは無かったのではないかと言われています。
紫式部は中宮彰子に、清少納言は皇后定子に仕えていたことから、立場上も仲良くする雰囲気ではなかったのかも知れません。
また、58番歌の作者である大弐三位(だいにのさんみ)は、紫式部の娘です。
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